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パパ目線の子育てブログ 2015年生まれの娘で、現在1人っ子です。

密やかで親しげな二人だけの空間「ピーエル・ボナール 浴槽」(好きな絵の感想)

浴槽(1925年)

浴槽に横になる女性、低い水に首まで浸かろうと体を棒のように伸ばしている。

顔や体はゆるんで、心の底から気持ちよさそうだ。

僕は浴槽に入っている女性の姿が好きだ。

好きと言ってもエロティックな意味合いではなく、なんとなく幸福な気持ちになれると言う意味で。

もちろん僕だって、女性の裸をみれば人並にエロティックな気持ちになるし、世間には浴槽に入る女性をずいぶんと性的な目つきで眺める男性がいることは知っている。あるいはそこで行為をなすことに好きだという性癖の人もいるだろう。

ただ、僕は浴槽に入る女性をみて、そんな気持ちにとてもはなれない。

たぶん浴槽という空間が、個人的で密やかで親しげだからだ。

暖かく幸せな浴槽に浸かる女性を眺めるだけで、僕は十分すぎるほど幸せになれる。

この絵を描いた画家は、フランス人のピエール・ボナール。描かれているのは妻のマルト。

ボナールは僕の好きな画家だ。

彼は室内のありふれた風景ばかり描いた画家だった。ミルクの入ったボウルや果物とその剥き終わった皮、使い古したコップ、犬と猫、そしてマルトと浴槽。

コーヒー(1915年)

格子縞のブラウス(1892年)

田舎の食堂(1915年)

学術的には彼はアンティミストと呼ばれているのだけど、その言葉がどんな意味を持つかは僕は知らない。

ただ、とくに美術史とかに大きく影響した画家ではないことは確からしい。

彼は、派閥だとか革新だとかそういったことを抜きにして、彼自身が好きな物を好きなように描いたんだろう。

そういう姿勢がまずもってかっこいいと思う。

ボナールは、妻と浴槽というモチーフで何枚も何枚も絵を描いている。

浴室の中の裸婦(1937年)

浴槽の裸婦(1924年)

逆光の裸婦(1908年)

てっきりボナールはお風呂が好きなんだと思っていたけど、お風呂が好きなのは妻のマルトだったらしい。

画集の解説や評伝なんかを読むと、マルトについてはこう書かれてある。

「気むずかしい」「嫉妬深い」「病弱」「風変わり」「人付き合いが苦手」

そしておもしろいことに、神経質で病的に綺麗好きだった彼女は一日のほとんどを浴室で過ごしたらしい。

ボナールは26歳のころにマルトと出会い、それからずっと二人で生活していた。

猫は飼っていたが子供は作らなかった。

彼らがどんな風に暮らしていたかは詳細な記録がないのでわからないが、おそらく病弱で神経質な妻をかばうように、人知れずひっそりと暮らしたのだろう。

おそらくボナールはマルトのことを深く愛していたであっただろうと思う。

そして妻が愛する浴槽も同じように愛していたであろう。

恋人と作る穏やかで楽しげな空間。僕はこの絵を見ると自然とニタニタしてしまう。まるで友達のノロケ話を聞かされているかのように。